テレビでラグビーの試合中継を見ていると、レフェリーの声が音声として聞こえます。
試合中もいろいろと選手たちに声を掛けているのがよくわかりますが、何度も聞いたことがある、一際目立った掛け声がありますね。
1.「クラウチ・バインド・セット」
スクラムで両チームが組む時、レフェリーが掛け声をかけていますが、あれは何と言っているのでしょうか。
答えは、「クラウチ」「バインド」「セット」です。
両チームがしっかりとスクラムを組めるように、レフェリーの掛け声に合わせて、段階的にスクラムを組んでいくのです。
はじめに「クラウチ」でお互いが低くかがみます。
次に「バインド」ですが、直訳すると「縛る」という意味で、ラグビーではつかむというような意味になります。
両チームの左プロップ(1番)と右プロップ(3番)が、1番は左手、3番は右手で、それぞれ正面の相手とつかみ合います。
バインドするときに、普通は1番の腕は下から、3番の腕は上から交差し、正面の相手の脇の下くらいのところをつかみます。
最後に「セット」の声に合わせて当たり、スクラムが組まれることになるわけです。
筆者が現役ラガーマンのころ(20年前)はいわゆる普通のラグビージャージでしたが、今のジャージはツルツルした合成繊維でしかもピチッと体にフィットしているので、実はバインドと言われてもなかなかつかめない場合があります。
バインドの意味は、つまり掴める距離で組むということなので、触れていることがポイントです。
ちなみに「バインド」の声に合わせて、最前列のプレイヤーは相手の耳と自分の耳が隣合わせになるようにするのが良いとされています。(「イヤー・トゥー・イヤー」)
2.なぜ掛け声に合わせてスクラムを組むのか
もともと、ラグビーのスクラムはかなり激しいものでした。
フォワード第一列を担当したことがある人はわかりますが、最初のヒットの強さ、またそのときに相手に対して有利な「頭」の位置を取れるかどうかが、スクラムの優劣には重要な要素でもあります。
あるときから、必要以上に勢いをつけてスクラムを組んだりするなど、危険性が高まってくるようになり、あるいは自分たちに有利なタイミングで組もうとするあまり、なかなか安定したスクラムにならないという問題点が目立つようになってきたのです。
それはつまり、フォワードのスクラムの技術が上達するほど、その危険性が高くなるということでもありました。
それで試合が止まってしまうようだと観客にとっては興ざめになり、ラグビーの魅力も損なわれてしまうということで、レフェリーの掛け声に合わせて安定したスクラムを組み、むしろ組んだ後の「押し合い」に力点を置くようになりました。
掛け声は年によって変わったりするのですが、ラグビーをより面白いスポーツへと進化するために試行錯誤を繰り返しているからだと言えます。
現在の掛け声は、2013-2014シーズンからのものです。
実際のところ、組む前の互いの第一列の間の距離がかなり短くなり、非常に近いところからスクラムを組むことになったので、衝突による危険性はかなり低くなったと言えます。
それ以前と比べても、おおよそ30㎝程度距離が短くなったと言われています。
ラグビー選手は巨漢で、しかもスクラムを組む瞬間は両チームそれぞれ5人(第一列、第二列)のパワーが一気にかかりますので、その30㎝だけでもずいぶんと衝撃は緩和されたはずです。
ラグビーをより面白く、しかし選手にとってはより安全に配慮したものにするために、スクラムの掛け声は地味ながらもとても大切なものなのです。
3.まとめ
掛け声に限らず、ラグビーではレフェリーが試合中、プレーの続行中か否かに関わらず、選手に向かって何かを言っているシーンが多くあります。
1チームに15人もプレイヤーがいて、密集があり、かつ広いフィールドを駆け回るスポーツであるのに、審判はレフェリー1人と線審2人、補助レフェリーが1人と、かなり少人数で試合を裁くわけですから、そこらじゅうで反則行為をされては裁ききれません。
できる限りプレイヤーには反則を犯さないように促すのも、ラグビーのレフェリーには必要な要素なのです。
ラグビーを「紳士のスポーツ」と言わしめるのも、レフェリーの努力が一役買っているのかもしれません。
みなさんも、紳士という意味でも「上達」するように、心がけましょう。